世界で勝負する仕事術

世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記 (幻冬舎新書)

世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記 (幻冬舎新書)

BlogTwitterで情報発信している異色の東大准教授の現在までのエンジニア人生を振り返った本。現在までのと言うか、完全に現在進行形なのが面白い。

私はフラッシュには全然携わっていなかったので、東芝時代の氏の活躍を存じていない。どちらかと言うと、東大に移られてから、毎年のように(と言うか毎年?)、ISSCCに採択されたり、Tech-Onに記事が載ったり、と言うことですごい人が東芝にいたんだなぁ、と言うことを知った。

しかし、本書を読んでみると、天才エンジニアと言うよりは、むしろ生き方のセンスの良さ、そしてその洗練されたセンスによって、チャンスを引きつけ、そのチャンスを見事につかみとってきた、様が伺える。

しかし、そのセンスも粘り強さから身についていったものなのだろう。入社当初、会社のお荷物部門だったフラッシュ部門への配属(今の東芝の状況を見ると、信じがたいが、時代はDRAM全盛の時だったので、真実なのだろう)。事業部に丁稚奉公した時の、ボタン押し作業。そのような中でもへこたれることなく気合と根性で乗り切った新人時代。その後も、経験と知識の壁を乗り越えるために、アイデアを数多く提案していき、そのうち一級の研究者へと成長。

その後、入社7年目(32歳位?)でスタンフォードMBAを取りに行く決意。この辺りから、センスの良さが際立つようになってくる。通常、技術職の人間は、弊社でもそうだが、工学を勉強するために留学に行く。それは、ひとえに自分の強み領域の深みを増したいからだろう。しかし、竹内氏の発想は、自分の強み領域にプラスαで経営、マーケティングなどビジネスに必要な要素を身につけることだった。この発想は、通常の人にはなかなか起きないものではないだろうか?

竹内氏の場合には、一つの領域のど真ん中で勝負するよりも、領域間の隙間で勝負をした方が勝機がある、と言う判断だったのでしょう。この領域の隙間を狙うというのは、ビジネス書などでもよく言われることだし、ブルーオーシャンを勝ち取るためにも必要なことだと思います。しかし、一般の人には、隙間はやはり隙間にしか見えない。その隙間の中にチャンスが落ちていても拾い取ることなどできない。竹内氏はMBAを取って、より広い視野を獲得することで、その隙間を見ると言う力をより増したのではないでしょうか。

MBAを取って、東芝でフラッシュのプロジェクトでリーダーにつき、フラッシュを東芝のコア事業に成長させた後、大学に移ります。

さて、この本の中で、私が共感した部分は、

  • 頭のいい人たちとは勝負しない
  • 受けた恩は次の世代に返す
  • 「地に足をつけてから」ではおそすぎる
  • 大学の教官からの叱り
  • 見えない部分にこだわる
  • ドラえもんがいたらしいなぁ」から始まる技術開発

と言う部分です。

私も東北大学の小柳教授の下で学部・修士の4年間を過ごしましたが、まず最初に社会人としての基本を叩きこまれました。今でも覚えていますが、研究室の配属に同級生6人で行ったところ、「挨拶がなっていない。君たちは、社長(研究室のボス)である私に対して、オレとかいうのか!! 私は君の友達じゃない!!」と一喝されました。もちろん、ぼくは優等生ではないので、それまでの人生でも何度も怒られてましたが、それまでを全て強制リセットさせられたように思いました。

あの時は、正直何を怒られているのかわかりませんでしたが、あの20と言うタイミングで性根を鍛え直させられたのは、今の人生で本当に良かったと思っています。ボク自身は何の成果も残せませんでしたが、それでも企業から来られた方や同級生、先生方と議論していく上で、ビジネスの現場ではどのようなセンスが必要なのか、と言うことを、モヤモヤながら掴んでいたように思えます。

今は、その時のセンスが非常に役に立っているように思えます。はっきりとは言えませんが、その感覚のお陰で、多少なりとも他人とは異なる目線を持つことができ、今の会社でのポジションにたどり着いているのではないかと思います(まだ、何のポジションもないですが)。

しかし、大学の世界での半導体系の研究は、企業出身の方が向いてるんだろうなぁ、と、改めて感じた一冊でした(どういう締めやw)